お酢ダイエット
■ どうして酢酸が効くの?
しかし、「酢酸が全身に運ばれることは分かったけど、なんで酢酸で痩せられるの?」
と思った方もいらっしゃると思います。
実は、酢酸の本当のすごさ、それは代謝のされ方にあります!! (Fig.2)
岡山県立大学の山下教授らによると...
酢酸は、様々な組織にに運ばれ、各組織の細胞に取り込まれた後、
酢酸→アセチルCoA※1
に変換されます(yamashita,2016)。
※1 アセチルCoAとは体を動かすエネルギー源となる物質です。
(エネルギー過剰時は脂肪になりますが...)
この「酢酸→アセチルCoA」の過程でAMPという物質が生成されます。
このAMPは、エネルギー状態を監視するAMPKという物質を活性化させます。
そして、AMPKは「脂肪を使ってエネルギーを作れ!」という指令を周りに伝えます。
そして脂肪が消費されるという流れになります。
筋肉を動かすにはATPを使います。糖も脂肪もタンパク質も、エネルギーとして使うためには最終的にATPという形になります。
運動時には
ATP→AMP+エネルギー
という反応を亢進し、AMPとエネルギーがたくさん産生されます。
その結果、AMPが増えてAMPKが活性化され、脂肪も多く使われ、痩せます。
しかし、酢酸であれば、摂取するだけでAMPを作れるのです!
つまり、酢酸を食べれば運動した場合と似た状況が作れるのです!!!
Fig.2 酢酸は代謝され、細胞内のAMPKを活性化させる
■ どのくらい飲めばいいの?
Kondo et al.(2009)によると...
日本人の肥満気味(BMI 25-30)の方を対象として、飲ませるドリンクの種類にしたがって以下の3つのグループに分けました。
・プラセボ(お酢を含まないドリンク)を500ml
・15mlの酢を含むドリンクを500ml
・30milの酢を含むドリンクを500ml
これを12週間の期間、毎日飲ませたところFig.3のような結果になりました。
これは12週間に、体脂肪の面積がどれほど変化したかを表したグラフです。
15mlの量でも十分に脂肪面積を減らせたことが分かります。
逆に言うと、お酢の多量摂取で、さらなる効果は期待できないと考えられます。
(棒グラフがありませんが、皮下脂肪のプラセボは、ほぼ変化なしということです。)
Fig.3 Kondo et al.より筆者作成
この研究では、脂肪面積の減少に加えて、
血中コレステロール、中性脂肪の減少も確認されました。
つまり、
少し多いですが、15mlのお酢を毎日摂取すれば、体脂肪や血中コレステロールに対する効果が期待できます。
(15mlのお酢に含まれている酢酸は、750mg)
しかし、はじめは少量から、自分の体に合わせて徐々に調節していくことをお勧めします。
以上のメカニズム、研究により
① 肥満予防、脂肪の減少→◎ 効果あり
②血中コレステロールの減少→◎ 効果あり
だと考えられます。
■ お酢は食欲を促進する?
上述してありように、お酢は食欲を促進するというインターネット記事を目にしますが、これは本当なのでしょうか?
"Nature Communications" という有名なジャーナルに、
酢酸が、脳の視床下部※2に直接的に作用して、食欲の抑制を引き起こすことが分かりました(Frost.2014)。
胃腸から分泌されるホルモンが食欲の調節に関わると考えられていましたが、
ホルモンではない酢酸が、脳の食欲調節に関わることは大きな発見でした。
※2 視床下部(弓状核)は食欲の調節に深くかかわる部位です。
また、お酢に関するレビュー(いろんな論文をまとめて考察した論文)を読んでみましたが、
「食欲促進」という言葉は見つけられませんでした(Samad.2016 , Petsiou.2014)
よって、
③食欲の促進→× (むしろ食欲を抑える)
だと考えられます。
■ まとめ
お酢に含まれている「酢酸」が肥満に効果的だと考えられます。
食欲の抑制にも効果的だと考えられます。
しかしながら、万人に当てはまるダイエット法は存在しません。
自分の体と相談しながら、少しずつ慎重に試していくことをお勧めします。
お役に立つことができましたでしょうか?
他の記事についても読んでいただけたら幸いです。
Canfora EE et al.:Short-chain fatty acids in control of body weight and insulin sensitivity .NATURE REVIEWS ENDOCRINOLOGY 11:577-591,2015
Frost et al.:The short-chain fatty acid acetate reduces appetite via a central homeostatic mechanism. NATURE COMMUNICATIONS ,2014
Kondo T et al.:Vinegar Intake Reduces Body Weight, Body Fat Mass, and Serum Triglyceride Levels in Obese Japanese Subjects.BIOSCIENCE BIOTECHNOLOGY AND BIOCHEMISTRY 73:1837-1843,2009
Samad A et al.:Therapeutic effects of vinegar: a review.CURRENT OPINION IN FOOD SCIENCE 8:56-61,2016
Petsiou et al.:hanisms of action of vinegar on glucose metabolism, lipid profile, and body weight.NUTRITION REVIEWS 72:651-661,2014
Yamashita et al, Effects of Acetate on Lipid Metabolism in Muscles and Adipose Tissues of Type 2 Diabetic Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty (OLETF) Rats .BIOSCIENCE BIOTECHNOLOGY AND BIOCHEMISTRY 73:570-576,2009
Yamashita.:Biological Function of Acetic Acid-Improvement in Obesity and Glucose Tolerance by Acetic Acid in Type 2 Diabetic Rats. CRITICAL REVIEWS IN FOOD SCIENCE AND NUTRITION 56:S171-S175,2016.
パレオダイエット
「おなかが減るとイライラする!」
「とりあえずお腹は満たしたい~、食べて痩せたい!」
といった方におすすめのダイエット法です。
(⚠研究の世界でも、万人に当てはまるダイエット法は分かっていません。「痩せる可能性が高い」とまでしか言い切れません。情報を鵜呑みにしすぎない姿勢を身に着けていただきたいと願います。そして、新しいダイエット法を取り入れる場合、自分の体と相談しながら少しずつ試していきましょう。)
■ パレオダイエットとは…
パレオは「Paleolithic」の略語で 旧石器時代 を意味します。
ダイエットは「diet」で、この場合、「痩せる」というよりも「食事」を意味します。
つまり、旧石器時代の食事 ということです。
旧石器時代の食生活は、狩りによって食糧を確保し、調理はほとんど行わず自然のまま食べる時代でした。
このような、旧石器時代の食生活を再現したダイエットです。
加工食品は有害だと考えられ、人の手が加わったものをほとんど食べまないようにします。自然の食物をありのまま食べるという方法です。
■ 何をすればいいの?
旧石器時代を模したダイエット方法ですが、、、
動物を狩りに行かなくても大丈夫です!(もちろん)
効果のあったとされる研究(Mellberg et al.2014) によると
パレオダイエットで積極的に摂取するものは、
赤身の肉、魚介類、卵、野菜、ナッツ、たね類、フルーツ、オリーブオイルなどです。
逆に摂取を控えなければならないものは、
乳製品、加工穀類、塩、精製油脂、精製糖などです。
つまり、加工食品は徹底して食べないです!
そして、食事摂取量の制限は特にありません!
■ ネット情報によると...
・肥満改善
・継続しやすい
・満腹感を得やすい
などといったメリットを目にします。
■ これらの効果は科学的にどうなのか?
ここでは、パレオダイエットが本当に効くのか?
研究に基づいた根拠や理論を解説します。
上述した効果について検討していきます。
結論から言うと
・肥満改善→◎
・継続しやすい→◎
・満腹感を得やすい→◎
だと考えられます。
■ パレオダイエットの流行
パレオダイエットは旧石器時代(約250万年~1万年前)の食事を再現したものです。
とはいっても、先祖たちは住んでいる場所も様々で気候も違います。
そのため食生活も各地で異なるため、パレオダイエットの明確な定義はありません。
言うならば、加工食品や穀物類を控えるということです。
このパレオダイエットが流行り始めたのは2014年頃からだと考えられます。(in アメリカ)
実際に2014年には、Google検索で、‘‘パレオ”はダイエットに関する用語のなかで最も高い検索ワードとなりました。
その頃から、パレオダイエットが研究されるようになってきました。
■ なぜパレオダイエットで痩せるの?
パレオダイエットで積極的に摂取するものは、
赤身の肉、魚介類、卵、野菜、ナッツ、たね類、フルーツ、オリーブオイルなど
逆に摂取を控えなければならないものは、
乳製品、加工穀類、塩、精製油脂、精製糖など
以上の食事を考えると、主食となるものは肉、魚、野菜フルーツになります。
すなわち自然と高タンパク低糖質な食事になる!!ということです。某会社がCMで大胆な宣伝をしていますが、それと類似したダイエット法になります。
実際にMellberg et al.の研究では... 高齢の肥満気味の女性を対象にして、パレオダイエットを行うグループ(PD)と、北欧で推奨されている食事(NNR)を行うグループに分け、パレオダイエットの効果を検証しました。食事制限は行いませんでした。これをなんと2年間行いました(被験者も研究者も大変そう、、笑)。 結果は、以下の図のようになりました。
Fig.1 Mellberg et al.より筆者作成
6ヶ月以内にPD条件の方々の体重は、NNR条件に比べて有意に減少していることが分かります。体重減少と同様に、脂肪量の減少も確認できました。
特に食事制限をしていないのに痩せたということが、辛くなくて良いですよね。 これに関して、高タンパク質の摂取は、好きなだけ食べても体重を落とすということが確認されています(Te Morenga.2010)。
よってパレオダイエットは肥満改善に有効だと考えられます。
(実は、高タンパク質低糖質の食事は痩せないという研究も存在します。これは対象者や介入期間、食事内容のような実験条件の微妙な違いによるものである可能性があります。パレオダイエットが自分の体に合うか確かめながら、徐々に試していきましょう。)
■ なぜ満腹感が生まれやすいの?
パレオダイエットでは魚を積極的に摂取します。
魚介類は、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)のようなω-3脂肪酸に富んでいます。
このω-3脂肪酸の摂取量の増加は満腹感を増加させることが報告されています(Parra D et al.2008)。
また、パレオダイエットでは高タンパクな食事になりますが、高タンパク質食は満腹感を得やすいということが報告されています(Poppitt et al. 1998)。
よってパレオダイエットの満腹感を得やすい食事によって、摂取するエネルギー量が減る可能性が考えられます。
■ 自由に食べれるなら簡単に続けられるってこと?
上述した、Mellberg et al.の研究(肥満者をPDグループとNNRグループに分け、行った実験)は、2年間の介入実験でした。
こういった、ヒトを対象とする実験では、人権を守るために被験者はいつでも実験からドロップアウトすることができようになっています。
つまり、きついダイエット法ほどドロップアウト率が高くなると考えられます。
このMellberg et al.の研究でのドロップアウト率ついて、PDグループは23%、NNRグループは37%となりました。PDグループはNNR(普通食)グループに比べて低くなっています。2年間の介入実験ということを考慮すると両者のドロップアウト率は低いでしょう。
このことからパレオダイエットは、継続しやすいダイエット法であると考えられます。続けやすい要因の一つとして「食事制限なし」という点が要因であるかもしれません。
もう一つの要因として、「短期間で効果が出る」ことが挙げられます。
パレオダイエットによって体質が改善した論文をまとめてみてみると、10日から5週間程度で効果がみられています(Frassetto et al.2009 , Osterdahl et al.2008 , Ryberg et al.2013)。
すぐに効果が出やすいのでモチベーションを保ちやすいダイエット法と考えられます。
■ まとめ
パレオダイエットは肥満改善に効果的だと考えられます。 満腹感が得やすいということで、継続して行えそうです。
しかしながら、万人に当てはまるダイエット法は存在しません。 自分の体と相談しながら、少しずつ慎重に試していくことをお勧めします。
お役に立つことができましたでしょうか?
他の記事についても読んでいただけたら幸いです。
■ 参考
Frassetto LA, Schloetter M, Mietus-Synder M, Morris RC Jr., Sebastian A. Metabolic and physiologic improvements from consuming a paleolithic, hunter-gatherer type diet. Eur J Clin Nutr 2009;63:947–55.
Osterdahl M, Kocturk T, Koochek A, Wa ¨ndell PE. Effects of a shortterm intervention with a paleolithic diet in healthy volunteers. Eur J Clin Nutr 2008;62:682–5.
Ryberg M, Sandberg S, Mellberg C, Stegle O, Lindahl B, Larsson C, Hauksson J, Olsson T. A Palaeolithic-type diet causes strong tissuespecific effects on ectopic fat deposition in obese postmenopausal women. J Intern Med 2013;274:67–76.
Eric W Manheimer, Esther J van Zuuren, Zbys Fedorowicz, and Hanno Pijl. Paleolithic nutrition for metabolic syndrome: systematic review and meta-analysis. Am J Clin Nutr 2015;102:922–32 C
Mellberg, S Sandberg , M Ryberg , M Eriksson , S Brage , C Larsson , T Olsson and B Lindahl.Long-term effects of a Palaeolithic-type diet in obese postmenopausal women: a 2-year randomized trial. European Journal of Clinical Nutrition 2014;68, 350–357
Parra D, Ramel A, Bandarra N, Kiely M, Martinez JA, Thorsdottir I. A diet rich in long chain omega-3 fatty acids modulates satiety in overweight and obese volunteers during weight loss. Appetite 2008; 51: 676–680.
Poppitt, SD; Swann, DL; Murgatroyd, PR; et al. Effect of dietary manipulation on substrate flux and energy balance in obese women taking the appetite suppressant dexfenfluramine. AMERICAN JOURNAL OF CLINICAL NUTRITION.1998;68:1012-1021.
ケトジェニックダイエット
「肉類が好き!」
「流行りに乗っかってみたい!」
といった方におススメのダイエット法です。
(⚠研究の世界でも、万人に当てはまるダイエット法は分かっていません。「痩せる可能性がある」とまでしか言い切れません。情報を鵜呑みにしすぎない姿勢を身に着けていただきたいと願います。そして、新しいダイエット法を取り入れる場合、自分の体と相談しながら少しずつ試していきましょう。)
■ ケトジェニックダイエットについて、ネット上の情報では
・体重減少
・短期間(数週間)で行うのがよい
・酢酸が産生されて酸性になり体調不良となる
などの効果があるという内容を目にします。
ケトン体とは。臭いの原因?危険性も知って上手に活用! - LCDC
体脂肪を燃焼させる!?「ケトン体ダイエット」とは - マイクロダイエットネット(microdiet.net) -
■ これらの効果は科学的にどうなのか?
ここでは、ケトン食が本当に効くのか?なぜ効くのか? 科学的根拠に基づいた理論・メカニズムをお伝えします。
上述した3点について 結論からいうと、以下の可能性が高い考えられます。
①体重減少→〇
②短期間で行うべきか→〇(長期間行うときの影響は不明)
③酢酸が産生されて酸性になり体調不良→×(酸性の原因はケトン体。そもそもケトン食では体調を悪化させる程度の酸性にはなりにくい)
以下、その科学的根拠について 解説していきます。
■ ダイエット法の流行りの変遷(in アメリカ)
1970以前 低脂肪ダイエット 脂質が完全に悪者とされている時代でした。
↓
1970年頃 アトキンスダイエット(低糖質食)が提唱されました。 (しかしながら、脂肪悪の流れに反するため一般に受け入れられるまでに時間がかかりました。流行り始めたのは2000年以降)
↓
↓
ケトン体ダイエットの興隆(超低糖質)
(ティム・スペクター. ダイエットの科学. 白揚社, 2017. を一部参考)
■ ケトン体ダイエットとは
上記のように、近年、糖質が体に悪影響を及ぼすという考えが広まってきています。
(糖質が悪者とも言い切れないのだが、ここでは触れません)
そこで、糖質の摂取量を減らして、タンパク質や脂質を主食にしようというダイエット法がブームとなってきました。脂質を主なエネルギーとして使おう、これがケトン食です。
どのくらいの割合で糖質を減らして、タンパク質や脂質をそれぞれ増やすのかは様々です。
Kosinski C and Jornayvas FR (2017)によると主に3つのパターンに分けられます。
①古典的ケトン食:炭水化物を1日130g以下で、総摂取カロリーの26%以下。
②アトキンスダイエット修正版:炭水化物6%、タンパク質30%、脂質65%。
③超低炭水化物ケトン食:炭水化物を1日30以下。
このような制限をかけて食事を摂ります。
■ ケトン体ダイエットの理論
基本知識として、、、 エネルギーとしての利用のしやすさは 糖質>脂質>タンパク質 です。 (糖は利用しやすいが貯蔵量は少ない、脂質は利用しにくいが貯蔵量は多い、タンパク質は超使いにくい)
ケトン食(低糖質・高脂肪食)によって、糖質の貯蔵量がなくなり、脂質の利用を増やさないといけない状況になります。しかし、脂質(脂肪酸)をエネルギーにするには手間がかかり時間がかかります。そこで、脂肪酸を肝臓で、エネルギーとして使いやすいケトン体に変換します。そして全身(脳や筋肉)へケトン体を放出しエネルギーとなります。
面白いことに、肝臓にしかケトン体を合成する酵素(HMG-CoAシンターゼ)はありません。またケトン体を使う酵素(スクシニル-CoAトランスフェラーゼ)には肝臓に無いです。つまり、肝臓は、脂肪酸を使ってケトン体を作る工場なのです。
■ 本当に体重は減るの?
ケトン食によって体重が減るという研究は数多く確認されています(Kennedy AR et al.2007 , Badman MK et al.2009 , Partsalaki I et al.2012 , Saisho Y et al.2013 , Foster GD.2003)。
なぜ体重が減るのか? 考えられる要因として主に以下の2つの可能性が挙げられます。
①エネルギー消費量の増加
Jornayvaz FR et al.(2010)は、マウスを ケトン食グループと通常食グループに分け飼育しました。 その結果、ケトン食で体重の増加が抑制されました。注目すべきことに、両者のグループでは摂取カロリーに差がありませんでした。さらに脂肪合成に関わる遺伝子発現が減少していました。
このことから、Jornayvaz FR et al.はエネルギー消費量が増えていたのではないかという考えに至っています。
エネルギー消費量の増加の要因としては、タンパク質摂取量の増加が挙げられます。
ケトン食では通常食に比べて高タンパクになります。タンパク質は消化吸収の過程でより多くのエネルギーを必要とします(Fine EJ.2004)。よってエネルギー消費量が増加した可能性があります。
もう一つの要因としては、糖新生の亢進が挙げられます。
糖新生とは、肝臓でアミノ酸やグリセロール(中性脂肪の構成要素)を糖に変換する手段です。ケトン食により糖が少なくなっている体内では、血糖を維持しようとして糖新生が亢進します。 この糖新生もエネルギーを必要とする(Veldhorst MAB et al.2009)ので、これがエネルギー消費量増加の要因である可能性があります。
②食欲抑制 ケトン食によって食欲が抑制されるという報告もされています。
Sumithran P et al.(2013)は、ケトーシス(ケトン体が増えた状態)によって食欲が抑制されると報告していますが、この時、グレリンが減少していました。
グレリンは、胃で産生されるホルモンですが、おなかが減っている!ことを脳に知らせます。 グレリン産生の抑制は、ケトン食による消化代謝の変化によるものだと考えられています。
他にもヒトを対象にした実験で、ケトン食により空腹感が緩和されたということがいくつか報告されています(Samaha FF et al.2003 , Johnstone AM et al.2013)
■ 体重減少についての注意点
⚠体重減っても、筋肉が減り脂肪が増える可能性も…
Garbow et al.(2011)は、マウスを ケトン食、通常食、高糖質高脂質食のグループに分け、12週間飼育しました。その結果、ケトン食で有意に体重が減少しました。が、ケトン食群では“徐脂肪量”が減っていたのです…。
徐脂肪量とは脂肪以外の量、つまり筋肉と考えてください。
他にもケトン食で体重は減ったが、脂肪は増えていたといった研究(Bilohuby M.2013)があるため、体組成の変化には十分気を付けることをお勧めします。
(↑これらの論文はマウスを対象にした研究ではありますが、ヒトにおいても十分ありえそう)
⚠短期的な研究ばかりなので…
ケトン食については短期的な(~20週間程度)研究がほとんどで、長くて1年かけた研究がいくつかあるくらいです。
Ellenbroek JH et al.(2014)は、ケトン食で最初の週では体重減少が認められたが、22週目以降は体重の減少の効果は無くなったと報告しています。
同様にDouris et al.(2015)も、80週間のケトン食について調べた実験で、最初に体重は減少したが、18週目以降は徐々に体重が増えていくということを報告しています。
↑これらの論文はマウスを対象にしています。ヒトを対象とした長期間のケトン食について調べた実験は、ほとんどありません。
今後、ヒトの長期的な研究を積み重ねていく必要があるといえます。
とはいえ短期的に見たらケトン食の体重抑制効果はあるように思えます。
ケトジェニックダイエットを行う場合は、体組成や期間などにも気を付けながら実践してみてください。
■ ケトン食は体内が酸性に傾き危険?
ネット上では、、、
ケトン食を食べる→脂肪の利用が高まる→酢酸が産生→酢酸のせいでphが低下(アシドーシス)し、下痢や嘔吐を引き起こす という情報をよく目にします。
確かに、絶食やケトン食のような脂肪の利用率が高い時に、酢酸も産生されます。
しかし、酢酸はかなり代謝が早い(処理しやすい)物質であるので、血中に残り酸性に寄与する割合は低いと考えられます。
ケトン食による酸性の原因は、ケトン体(アセト酢酸やβ-ヒドロキシ酪酸)です。
ケトン体によって血中ケトン体濃度が著しく上昇し、酸性に傾く危険な状態をケトアシドーシスといいます。
はたして、ケトアシドーシスにはどれほど注意した方がいいか?
通常のケトン食を健常者が摂る場合、血中ケトン体濃度は7~8mmol/L程度まで上昇します。(通常食では0.1mmol/L)(Paoli A.2014)
げっ!通常食の70~80倍!と思うでしょうが、phは7.4のままで通常時と変わりません。
それは炭酸緩衝系やリン酸緩衝系といったphを一定に保つ働きがあるため、簡単には血中phは低下しません。
危険な濃度になる可能性があるのは、糖尿病の方です。
筋肉は最大の糖処理器官とされていますが、糖尿病の方は筋肉に糖を取り込めなくなります。となるとエネルギーとして使えるのはほぼ脂肪しかない→脂肪由来のケトン体が過剰に産生→ケトアシドーシスに陥る といった流れです。
この場合、ケトン体の濃度は25mmol/L以上に達します。いよいよph緩衝系は耐え切れずph低下に至ります。
ただ、健常人ではほとんどアシドーシスの危険はないと考えて大丈夫そうです。
■ まとめ
ケトジェニックダイエットは体重の減少に効果的だと考えられます。
エネルギー消費量の増加、空腹感の抑制が体重の減少に寄与していると考えられています。
しかし、短期的な体重減少効果は広く確認されているが、長期的な影響は懐疑的であります。
また、健常人においては、ケトン食によるケトアシドーシスの危険性はほとんどないです。
ケトン食は、脂質の割合を増やすというものでありますが、脂質にも様々な種類があるため、油の質にこだわることも大事です。そのことについても考えるとケトン食の研究はかなり複雑になってきます。
今後、油の質についての記事も書けたらいいなと思っています。
最後に、、、万人に当てはまるダイエット法は存在しません。 自分の体と相談しながら、少しずつ慎重に試していくことをお勧めします。
お役に立つことができましたでしょうか?
他の記事についても読んでいただけたら幸いです。
■ 参考
Christophe Kosinski and François R. Jornayvaz. Effects of Ketogenic Diets on Cardiovascular Risk Factors:.Evidence from Animal and Human Studies. Nutrients 2017.9. 517
Kennedy, A.R.; Pissios, P.; Otu, H.; Roberson, R.; Xue, B.; Asakura, K.; Furukawa, N.; Marino, F.E.; Liu, F.F.; Kahn, B.B.; et al. A high-fat, ketogenic diet induces a unique metabolic state in mice. Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 2007, 292, E1724–E1739.
Badman, M.K.; Kennedy, A.R.; Adams, A.C.; Pissios, P.; Maratos-Flier, E. A very low carbohydrate ketogenic diet improves glucose tolerance in ob/ob mice independently of weight loss.Am. J.Physiol. Endocrinol.Metab. 2009, 297, E1197–E1204.
Partsalaki, I.; Karvela, A.; Spiliotis, B.E. Metabolic impact of a ketogenic diet compared to a hypocaloric diet in obese children and adolescents. J. Pediatr. Endocrinol. Metab. 2012, 25, 697–704.
Saisho,Y.;Butler,A.E.;Manesso,E.;Elashoff,D.;Rizza,R.A.;Butler,P.C.β-cell mass and turnover in humans: Effects of obesity and aging. Diabetes Care 2013, 36, 111–117.
Foster, G.D.; Wyatt, H.R.; Hill, J.O.; McGuckin, B.G.; Brill, C.; Mohammed, B.S.; Szapary, P.O.;Rader,D.J.;Edman,J.S.;Klein,S.A. Randomized Trial of a Low Carbohydrate Diet for Obesity. N.Engl. J.Med. 2003,348, 2082–2090.
Fine,E.J.;Feinman,R.D. Thermodynamics of weight loss diets. Nutr. Metab. 2004,1,15. Veldhorst, M.A.B.; Westerterp-Plantenga, M.S.; Westerterp, K.R. Gluconeogenesis and energy expenditure after a high-protein, carbohydrate-free diet. Am. J. Clin. Nutr. 2009, 90, 519–526.
Jornayvaz, F.R.; Jurczak, M.J.; Lee, H.-Y.; Birkenfeld, A.L.; Frederick, D.W.; Zhang, D.; Zhang, X.M.; Samuel, V.T.; Shulman, G.I. A high-fat, ketogenic diet causes hepatic insulin resistance in mice, despite increasing energy expenditure and preventing weight gain. Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 2010, 299, E808–E815.
Samaha, F.F.; Iqbal, N.; Seshadri, P.; Chicano, K.L.; Daily, D.A.; McGrory, J.; Williams, T.; Williams, M.; Gracely, E.J.; Stem, L. A Low-Carbohydrate as Compared with a Low-Fat Diet in Severe Obesity. N. Engl. J. Med. 2003, 348, 2074–2081.
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Bielohuby, M.; Sisley, S.; Sandoval, D.; Herbach, N.; Zengin, A.; Fischereder, M.; Menhofer, D.; Stoehr, B.J.M.; Stemmer, K.; Wanke, R.; et al. Impaired glucose tolerance in rats fed low-carbohydrate, high-fat diets. Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 2013, 305, E1059–E1070.
Garbow,J.R.;Doherty,J.M.;Schugar,R.C.;Travers,S.;Weber,M.L.;Wentz,A.E.;Ezenwajiaku,N.;Cotter,D.G.; Brunt, E.M.; Crawford, P.A. Hepatic steatosis, inflammation, and ER stress in mice maintained long term on a very low-carbohydrate ketogenic diet. Am. J.Physiol. Gastrointest. LiverPhysiol.
Ellenbroek,J.H.;vanDijck,L.;Tons,H.A.;Rabelink,T.J.;Carlotti,F.;Ballieux,B.E.;deKoning,E.J.P.Long-term ketogenic diet causes glucose intolerance and reduced B- and a-cell mass but no weight loss in mice. Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 2014, 306, E552–E558.
Douris, N.; Melman, T.; Pecherer, J.M.; Pissios, P.; Flier, J.S.; Cantley, L.C.; Locasale, J.W.; Maratos-Flier, E. Adaptive changes in amino acid metabolism permit normal longevity in mice consuming a low-carbohydrate ketogenic diet. Biochim. Biophys. Acta 2015, 1852, 2056–2065. Antonio Paoli . Ketogenic Diet for Obesity: Friend or Foe?. Int. J. Environ. Res. Public Health 2014, 11, 2092-2107