ケトジェニックダイエット

fanblogs.jp

 

「肉類が好き!」

「流行りに乗っかってみたい!」

といった方におススメのダイエット法です。

(⚠研究の世界でも、万人に当てはまるダイエット法は分かっていません。「痩せる可能性がある」とまでしか言い切れません。情報を鵜呑みにしすぎない姿勢を身に着けていただきたいと願います。そして、新しいダイエット法を取り入れる場合、自分の体と相談しながら少しずつ試していきましょう。)

 

 

 

■ ケトジェニックダイエットについて、ネット上の情報では

 

・体重減少

・短期間(数週間)で行うのがよい

・酢酸が産生されて酸性になり体調不良となる

      などの効果があるという内容を目にします。

 

ケトン体とは。臭いの原因?危険性も知って上手に活用! - LCDC

 

体脂肪を燃焼させる!?「ケトン体ダイエット」とは - マイクロダイエットネット(microdiet.net) -

 

 

 

 

■ これらの効果は科学的にどうなのか?

 

ここでは、ケトン食が本当に効くのか?なぜ効くのか? 科学的根拠に基づいた理論・メカニズムをお伝えします。

 

上述した3点について 結論からいうと、以下の可能性が高い考えられます。

①体重減少→〇

②短期間で行うべきか→〇(長期間行うときの影響は不明)

③酢酸が産生されて酸性になり体調不良→×(酸性の原因はケトン体。そもそもケトン食では体調を悪化させる程度の酸性にはなりにくい) 

 

以下、その科学的根拠について 解説していきます。

 

 

 

■ ダイエット法の流行りの変遷(in アメリカ)

 

1970以前 低脂肪ダイエット 脂質が完全に悪者とされている時代でした。

1970年頃 アトキンスダイエット(低糖質食)が提唱されました。 (しかしながら、脂肪悪の流れに反するため一般に受け入れられるまでに時間がかかりました。流行り始めたのは2000年以降)

パレオダイエット穀物類、加工食品を避ける方法)

ケトン体ダイエットの興隆(超低糖質)

 

(ティム・スペクター. ダイエットの科学. 白揚社, 2017. を一部参考)

 

 

 

■ ケトン体ダイエットとは

 

上記のように、近年、糖質が体に悪影響を及ぼすという考えが広まってきています。

(糖質が悪者とも言い切れないのだが、ここでは触れません)

 

そこで、糖質の摂取量を減らして、タンパク質や脂質を主食にしようというダイエット法がブームとなってきました。脂質を主なエネルギーとして使おう、これがケトン食です。

 

どのくらいの割合で糖質を減らして、タンパク質や脂質をそれぞれ増やすのかは様々です。

 

Kosinski C and Jornayvas FR (2017)によると主に3つのパターンに分けられます。

①古典的ケトン食:炭水化物を1日130g以下で、総摂取カロリーの26%以下。

アトキンスダイエット修正版:炭水化物6%、タンパク質30%、脂質65%。

③超低炭水化物ケトン食:炭水化物を1日30以下。

このような制限をかけて食事を摂ります。

 

 

 

 

■ ケトン体ダイエットの理論

 

基本知識として、、、 エネルギーとしての利用のしやすさは 糖質>脂質>タンパク質 です。 (糖は利用しやすいが貯蔵量は少ない、脂質は利用しにくいが貯蔵量は多い、タンパク質は超使いにくい)

 

ケトン食(低糖質・高脂肪食)によって、糖質の貯蔵量がなくなり、脂質の利用を増やさないといけない状況になります。しかし、脂質(脂肪酸)をエネルギーにするには手間がかかり時間がかかります。そこで、脂肪酸を肝臓で、エネルギーとして使いやすいケトン体に変換します。そして全身(脳や筋肉)へケトン体を放出しエネルギーとなります。

面白いことに、肝臓にしかケトン体を合成する酵素(HMG-CoAシンターゼ)はありません。またケトン体を使う酵素(スクシニル-CoAトランスフェラーゼ)には肝臓に無いです。つまり、肝臓は、脂肪酸を使ってケトン体を作る工場なのです。

f:id:kuuuuchany:20180107014859p:plain

 

 

 

 

 

■ 本当に体重は減るの?

 

ケトン食によって体重が減るという研究は数多く確認されています(Kennedy AR et al.2007 , Badman MK et al.2009 , Partsalaki I et al.2012 , Saisho Y et al.2013 , Foster GD.2003)。

 

なぜ体重が減るのか? 考えられる要因として主に以下の2つの可能性が挙げられます。

 

①エネルギー消費量の増加

Jornayvaz FR et al.(2010)は、マウスを ケトン食グループと通常食グループに分け飼育しました。 その結果、ケトン食で体重の増加が抑制されました。注目すべきことに、両者のグループでは摂取カロリーに差がありませんでした。さらに脂肪合成に関わる遺伝子発現が減少していました。

このことから、Jornayvaz FR et al.はエネルギー消費量が増えていたのではないかという考えに至っています。

 

エネルギー消費量の増加の要因としては、タンパク質摂取量の増加が挙げられます。

ケトン食では通常食に比べて高タンパクになります。タンパク質は消化吸収の過程でより多くのエネルギーを必要とします(Fine EJ.2004)。よってエネルギー消費量が増加した可能性があります。

 

もう一つの要因としては、糖新生の亢進が挙げられます。

糖新生とは、肝臓でアミノ酸やグリセロール(中性脂肪の構成要素)を糖に変換する手段です。ケトン食により糖が少なくなっている体内では、血糖を維持しようとして糖新生が亢進します。 この糖新生もエネルギーを必要とする(Veldhorst MAB et al.2009)ので、これがエネルギー消費量増加の要因である可能性があります。

 

 

 

②食欲抑制 ケトン食によって食欲が抑制されるという報告もされています。

Sumithran P et al.(2013)は、ケトーシス(ケトン体が増えた状態)によって食欲が抑制されると報告していますが、この時、グレリンが減少していました。

グレリンは、胃で産生されるホルモンですが、おなかが減っている!ことを脳に知らせます。 グレリン産生の抑制は、ケトン食による消化代謝の変化によるものだと考えられています。

他にもヒトを対象にした実験で、ケトン食により空腹感が緩和されたということがいくつか報告されています(Samaha FF et al.2003 , Johnstone AM et al.2013)

 

 

 

 

 

■ 体重減少についての注意点

 

⚠体重減っても、筋肉が減り脂肪が増える可能性も…

 

Garbow et al.(2011)は、マウスを ケトン食、通常食、高糖質高脂質食のグループに分け、12週間飼育しました。その結果、ケトン食で有意に体重が減少しました。が、ケトン食群では“徐脂肪量”が減っていたのです…。

徐脂肪量とは脂肪以外の量、つまり筋肉と考えてください。

 

他にもケトン食で体重は減ったが、脂肪は増えていたといった研究(Bilohuby M.2013)があるため、体組成の変化には十分気を付けることをお勧めします。

 

(↑これらの論文はマウスを対象にした研究ではありますが、ヒトにおいても十分ありえそう)

 

 

 

⚠短期的な研究ばかりなので…

 

ケトン食については短期的な(~20週間程度)研究がほとんどで、長くて1年かけた研究がいくつかあるくらいです。

Ellenbroek JH et al.(2014)は、ケトン食で最初の週では体重減少が認められたが、22週目以降は体重の減少の効果は無くなったと報告しています。

同様にDouris et al.(2015)も、80週間のケトン食について調べた実験で、最初に体重は減少したが、18週目以降は徐々に体重が増えていくということを報告しています。

 

↑これらの論文はマウスを対象にしています。ヒトを対象とした長期間のケトン食について調べた実験は、ほとんどありません。

 

今後、ヒトの長期的な研究を積み重ねていく必要があるといえます。

 

とはいえ短期的に見たらケトン食の体重抑制効果はあるように思えます。

 

ケトジェニックダイエットを行う場合は、体組成や期間などにも気を付けながら実践してみてください。

 

 

 

 

 

 

■ ケトン食は体内が酸性に傾き危険?

 

ネット上では、、、

ケトン食を食べる→脂肪の利用が高まる→酢酸が産生→酢酸のせいでphが低下(アシドーシス)し、下痢や嘔吐を引き起こす という情報をよく目にします。

 

確かに、絶食やケトン食のような脂肪の利用率が高い時に、酢酸も産生されます。

しかし、酢酸はかなり代謝が早い(処理しやすい)物質であるので、血中に残り酸性に寄与する割合は低いと考えられます。

酢酸について

 

ケトン食による酸性の原因は、ケトン体(アセト酢酸やβ-ヒドロキシ酪酸)です。

ケトン体によって血中ケトン体濃度が著しく上昇し、酸性に傾く危険な状態をケトアシドーシスといいます。

 

はたして、ケトアシドーシスにはどれほど注意した方がいいか?

 

通常のケトン食を健常者が摂る場合、血中ケトン体濃度は7~8mmol/L程度まで上昇します。(通常食では0.1mmol/L)(Paoli A.2014)

げっ!通常食の70~80倍!と思うでしょうが、phは7.4のままで通常時と変わりません。

それは炭酸緩衝系やリン酸緩衝系といったphを一定に保つ働きがあるため、簡単には血中phは低下しません。

 

危険な濃度になる可能性があるのは、糖尿病の方です。

筋肉は最大の糖処理器官とされていますが、糖尿病の方は筋肉に糖を取り込めなくなります。となるとエネルギーとして使えるのはほぼ脂肪しかない→脂肪由来のケトン体が過剰に産生→ケトアシドーシスに陥る といった流れです。

この場合、ケトン体の濃度は25mmol/L以上に達します。いよいよph緩衝系は耐え切れずph低下に至ります。

 

ただ、健常人ではほとんどアシドーシスの危険はないと考えて大丈夫そうです。

 

 

 

 

■ まとめ

 

ケトジェニックダイエットは体重の減少に効果的だと考えられます。

 

エネルギー消費量の増加、空腹感の抑制が体重の減少に寄与していると考えられています。

しかし、短期的な体重減少効果は広く確認されているが、長期的な影響は懐疑的であります。

 

また、健常人においては、ケトン食によるケトアシドーシスの危険性はほとんどないです。

 

ケトン食は、脂質の割合を増やすというものでありますが、脂質にも様々な種類があるため、油の質にこだわることも大事です。そのことについても考えるとケトン食の研究はかなり複雑になってきます。

今後、油の質についての記事も書けたらいいなと思っています。

 

最後に、、、万人に当てはまるダイエット法は存在しません。 自分の体と相談しながら、少しずつ慎重に試していくことをお勧めします。

 

お役に立つことができましたでしょうか?

他の記事についても読んでいただけたら幸いです。

 

 

 

■ 参考

 

Christophe Kosinski and François R. Jornayvaz. Effects of Ketogenic Diets on Cardiovascular Risk Factors:.Evidence from Animal and Human Studies. Nutrients 2017.9. 517

 

Kennedy, A.R.; Pissios, P.; Otu, H.; Roberson, R.; Xue, B.; Asakura, K.; Furukawa, N.; Marino, F.E.; Liu, F.F.; Kahn, B.B.; et al. A high-fat, ketogenic diet induces a unique metabolic state in mice. Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 2007, 292, E1724–E1739.

 

Badman, M.K.; Kennedy, A.R.; Adams, A.C.; Pissios, P.; Maratos-Flier, E. A very low carbohydrate ketogenic diet improves glucose tolerance in ob/ob mice independently of weight loss.Am. J.Physiol. Endocrinol.Metab. 2009, 297, E1197–E1204.

 

Partsalaki, I.; Karvela, A.; Spiliotis, B.E. Metabolic impact of a ketogenic diet compared to a hypocaloric diet in obese children and adolescents. J. Pediatr. Endocrinol. Metab. 2012, 25, 697–704.

 

Saisho,Y.;Butler,A.E.;Manesso,E.;Elashoff,D.;Rizza,R.A.;Butler,P.C.β-cell mass and turnover in humans: Effects of obesity and aging. Diabetes Care 2013, 36, 111–117.

 

Foster, G.D.; Wyatt, H.R.; Hill, J.O.; McGuckin, B.G.; Brill, C.; Mohammed, B.S.; Szapary, P.O.;Rader,D.J.;Edman,J.S.;Klein,S.A. Randomized Trial of a Low Carbohydrate Diet for Obesity. N.Engl. J.Med. 2003,348, 2082–2090.

 

Fine,E.J.;Feinman,R.D. Thermodynamics of weight loss diets. Nutr. Metab. 2004,1,15. Veldhorst, M.A.B.; Westerterp-Plantenga, M.S.; Westerterp, K.R. Gluconeogenesis and energy expenditure after a high-protein, carbohydrate-free diet. Am. J. Clin. Nutr. 2009, 90, 519–526.

 

Jornayvaz, F.R.; Jurczak, M.J.; Lee, H.-Y.; Birkenfeld, A.L.; Frederick, D.W.; Zhang, D.; Zhang, X.M.; Samuel, V.T.; Shulman, G.I. A high-fat, ketogenic diet causes hepatic insulin resistance in mice, despite increasing energy expenditure and preventing weight gain. Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 2010, 299, E808–E815.

 

Samaha, F.F.; Iqbal, N.; Seshadri, P.; Chicano, K.L.; Daily, D.A.; McGrory, J.; Williams, T.; Williams, M.; Gracely, E.J.; Stem, L. A Low-Carbohydrate as Compared with a Low-Fat Diet in Severe Obesity. N. Engl. J. Med. 2003, 348, 2074–2081.

 

Johnstone,A.M.;Horgan,G.W.;Murison,S.D.;Bremner,D.M.;Lobley,G.E.Effectsofahigh-proteinketogenic diet on hunger, appetite, and weight loss in obese men feeding ad libitum. Am. J. Clin. Nutr. 2008, 87, 44–55.

 

Bielohuby, M.; Sisley, S.; Sandoval, D.; Herbach, N.; Zengin, A.; Fischereder, M.; Menhofer, D.; Stoehr, B.J.M.; Stemmer, K.; Wanke, R.; et al. Impaired glucose tolerance in rats fed low-carbohydrate, high-fat diets. Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 2013, 305, E1059–E1070.

 

Garbow,J.R.;Doherty,J.M.;Schugar,R.C.;Travers,S.;Weber,M.L.;Wentz,A.E.;Ezenwajiaku,N.;Cotter,D.G.; Brunt, E.M.; Crawford, P.A. Hepatic steatosis, inflammation, and ER stress in mice maintained long term on a very low-carbohydrate ketogenic diet. Am. J.Physiol. Gastrointest. LiverPhysiol. 

 

Ellenbroek,J.H.;vanDijck,L.;Tons,H.A.;Rabelink,T.J.;Carlotti,F.;Ballieux,B.E.;deKoning,E.J.P.Long-term ketogenic diet causes glucose intolerance and reduced B- and a-cell mass but no weight loss in mice. Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 2014, 306, E552–E558.

 

Douris, N.; Melman, T.; Pecherer, J.M.; Pissios, P.; Flier, J.S.; Cantley, L.C.; Locasale, J.W.; Maratos-Flier, E. Adaptive changes in amino acid metabolism permit normal longevity in mice consuming a low-carbohydrate ketogenic diet. Biochim. Biophys. Acta 2015, 1852, 2056–2065. Antonio Paoli . Ketogenic Diet for Obesity: Friend or Foe?. Int. J. Environ. Res. Public Health 2014, 11, 2092-2107